バッハの教会カンタータ>カンタータ第19番
DOVERの"Seven Great Sacred Cantatas"の3曲目です。9/29 大天使ミカエルの祝日は、固定 祝日で、年によって日付が変わらないものです。
ヨハネの黙示録12章には、大天使ミカエルが悪魔の象徴である巨大な龍と戦って勝 利し、天から龍を追い落とすという話が出てきます。このカンタータは、最初の合唱 で天使と悪魔の戦いの情景が描かれたり、最後のレシタティーヴォとコラールでは天 国に向かう馬車(黒人霊歌の"Swing low sweet chariot"で歌われるもの)が出てきたり、イメージ の豊かな作品となっています。
▼この作品は、録音も少なく、以下のようにほとんどが全集の一部です。たまたま フリッツ・ヴェルナーの録音もあったので、一応の比較ができました。
アルノンクール 1972 TELDEC最初にヴェルナーを聞きましたが、楽器の方がトランペット=モーリス・アンドレ、オーボエ=ピエール・ピ エルロなどと豪華な顔ぶれな割にさえない印象でした。しか し、アルノンクールで気持ちを取り直し、リリングでブラヴォーという、これまでとは 違った展開となりました。Leusinkは今回は良いところがありませんでした。
▼曲はいきなり合唱から入り、3本のトランペットとティンパニが華やかに曲を盛り 上げる、実にかっこいい合唱曲です。余りむずかしいことは考えなくても、とにかく 迫力があり、トランペットが効果的です。
次のレシタティーヴォ(B)は簡潔なもの。第3曲アリア(S)は、2本のオーボエ・ダ モーレと通奏低音を伴った、なかなか美しいものです。
第4曲テノールのレシタティーヴォは弦合奏を伴って、情感が豊かです。これは、次 のアリアへの導入として、大変効果的です。
第5曲のテノールアリアは、一番心に残るものでした。シチリアーノのようなゆった りした弦合奏にのって、テノールが切々と「我と共に留まり給え、天使よ」と歌うの がそれだけでも夢のように美しい上に、さらにトランペットがコラール旋律を奏して 入っていくところが、涙なしでは聞けません。このアリアだけでも、この作品は値打 ちがあります。
このアリアで何度も繰り返し歌われる"bleibt bei mir"という歌詞は、英語なら "stay with me"ということになるのでしょうけれど、むしろ昔見た映画の "stand by me" を思い出してしまいました。胸がきゅんとするような映画でした。そんな気持ち を思いだしながら、このアリアを聞いていました。
次のレシタティーヴォ(S)はごく簡潔なものですが、最後のコラールでは再び3本の トランペットとティンパニが加わり、実に華やかに全曲をしめくくる、これもまたこ たえられません。まあ、バッハならこれくらいやって当然という感じかも知れません が、やはり味のある忘れがたい作品でした。
▼さて、演奏の方ですが、まずヴェルナー盤は唯一の弱点である「古くささ」がまと もに出てしまった感じです。最初の合唱ではトランペットが飛び出しすぎ。アリアは ソプラノもテノールもあまりにもロマンティックなスタイルが今となっては違和感が あるといった具合です。やっと、最後のコラールでさすがという演奏でした。
その点、同じ現代楽器による演奏でも、リリングの方がずっと素直で美しい歌い方、 楽器のバランスも良く、合唱も迫力があり、まず文句のつけようのない演奏でした。 また、第3曲アリアの通奏低音でファゴットを使っているのが、オーボエ・ダモーレ の音色とマッチして、とても良い効果を出していました。
アルノンクールの演奏は、ナチュラルトランペットの魅力もあり、合唱も悪くないの ですが、第1曲ではトランペットが逆に引っ込みすぎ。またアリアのボーイソプラノ は、BWV 6ほど魅力的ではありません。ただ、テノールのアリアではやはりクルト・ エクィルツが圧倒的にうまく、トランペットも魅力的、弦合奏もアクセントが良い。 このアリアに関してだけは、幾分アルノンクールが上かなという気がしました。しか し、リリング盤のクラウスも決してそれに劣るものではなく、この作品に関してはリ リングさまさまというところです。
(2001年4月2日)
このほかに、第5曲のアリアだけですが、Max Pommerの指揮で、テノール:ペーターシュライヤー、トランペット:ルートヴィヒ・ギュットラーという豪華版の録音があります(CAPRICCIO)。テノールが少しやかましい気もしますが、一聴の価値があると思います。
(2002年5月3日)