カンタータ第172番《歌よ、響け》バッハの教会カンタータ(11) BWV172 (ワイマール時代6)
カンタータ第172番《歌よ、響け》BWV172 今回聞く《歌よ、響け》BWV172は、前回のBWV12に続いて、1714年の作品。 キリスト教では、移動祝日である復活祭から50日目を「聖霊降臨祭」(ペンテコス テ)として祝います。これは、キリストの復活から50日目に、キリストの使徒たち に神の聖霊が下り、以後彼らは恐れることなくキリストの福音を述べ伝えるように なったという故事から来ています。又、その時多くの者が洗礼を受けて、一気に教団 が拡大したということです。聖霊降臨祭のつぎの日曜日が「三位一体主日」で、以後 待降節(アドベント=クリスマス前の第4日曜)までは特別の祝日に乏しい期間とな ります。 ▼さて、《歌よ、響け》BWV172ですが、初演は1714年5月20日、つまり、バッハの楽 師長就任第3作となります。 《歌よ、響け》という題にふさわしく、第1曲は、3本のトランペットとティンパニ を伴った、実に華やかな合唱曲です。3拍子の曲の感じは何かの舞曲を思わせます。 強いて言えば、管弦楽組曲第1番のパスピエに似ていなくもありませんが、もっと 堂々と華やかな感じです。私は、どちらかというとこういう祝典的な曲が苦手なので すが、この曲はスカッとさわやか、大変けっこうです。 第2曲のバスのレシタティーヴォは、チェロが印象的、かつバスが下のハ音で終わり ます。(ピッチがA=465でもすごい低音です。) 第3曲のバスのアリアは、第1曲の延長のような華やかな曲で、3本のトランペット が、三和音を奏する、三部形式の曲です。このように、三位一体を讃えるのに三づく しとなっているのが、バッハの時代らしいところです。真剣にだじゃれをやっている という感じです。 第4曲はテノールのアリア。弦楽のユニゾンが流麗な旋律を奏する中を、テノールが 天国の至福を歌います。弦楽の起伏に富んだ旋律は一度聞いたら忘れられない曲で す。 第5曲はソプラノとアルトによるデュエット。ソプラノは人間の魂の声、アルトは聖 霊の声を表すそうです。ともかく、ソプラノとアルトの掛け合い、チェロとオルガン のオブリガートと、聞き所の多い曲です。 最後は、あっさりとコラールで終わりますが、これにヴァイオリンがからむところが 大変美しい。讃美歌も「輝く曙の明星のいと美わしきかな」という、印象的な曲で す。 ▼この曲の演奏ですが、次回のBWV165と同じく、レオンハルト、コープマン、そして 鈴木雅明の三種のみ持っています。他には、リリングとロッチュの演奏があるはずで す。レオンハルトは、いかにも正しい演奏。ボーイソプラノは相変わらず苦しげ。鈴 木雅明は、文句のつけようのない演奏ですが、強いて言えばソロが少しずつ弱いか。 コープマンは、やはり合唱もソロももちろん楽器も最上で、冒頭の合唱など、喜びが こみ上げてきます。鈴木盤の合唱ももちろんうまいのですが、コープマン盤はもっと 心からの喜びを感じます。 第5曲のオブリガートについて、鈴木盤の冊子にはオルガンと書いてありますが、ど うもオーボエのような音が聞こえます。これもオルガンの音なのかどうか、自信があ りません。コープマン盤のオルガンはちょっとうるさいです。 (2000年5月13日執筆)
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