カンタータ第31番《天は笑い、地は歓呼す》


バッハの教会カンタータ(22) BWV 31 (ワイマール時代17)

カンタータ第31番《天は笑い、地は歓呼す》BWV31
Der Himmel lacht, die Erde jubilieret
1715, 4/21 復活節第1日

今日は節分。明日は立春。外は寒くても、何となく春の訪れを感じてしまいま す。教会の一年で春を代表するものと言えば、やはりイースター。もちろん、そ れまでに受難週間があり、イースターは気が早いのですが、そういう風にこじつ けてこのカンタータを聞くことにしましょう。このカンタータで、ワイマール時 代のカンタータは一応すべて聞いたことになります。いよいよ、ライプツィヒ時 代の数多くの名曲と取り組むことになります。

この作品は2年ほど前に聞いたのですが(下記にその時の文章をのせていま す)、その後他の演奏も聞きましたので、もう一度気がついたことを書いておき たいと思います。

▼第1曲「ソナタ」。これは、協奏曲か序曲といった曲ですが、ハ長調の晴朗な 和音が実に明るく、トランペット3本とティンパニが実に気持ちよく鳴りまく り、実に爽快な音楽です。続いて第2曲は、特に冒頭の4つの音符が高らかな哄 笑を表しているようで(要するに「わっはっはっは」と聞こえる)、うれしくて しかたがなくなるのです。途中「安息の墓」といった歌詞に応じて、曲はアダー ジョに移行しますが(このあたりがまた美しい)、再び元の喜びに戻ります。

第3曲から第8曲までは、バス、テノール、ソプラノがそれぞれレシタティー ヴォとアリアを歌います。この繰り返しが何となくこころよい。バスの変化に富 んだレシタティーヴォと厳しい付点リズムのアリア、テノールの思い切ったコ ロラトゥーラを含んだレシタティーヴォと弦のハーモニーの美しいアリアなど、 それぞれに聞きごたえがありますが、なんと言ってもソプラノのアリアの魅力が 飛び抜けています。

第8曲ソプラノのアリアは、エコーの効果を聞かせたオーボエ(またはオーボエ ・ダモーレ)のオブリガートの美しさが出色です。さらに、弦楽合奏が終曲のコ ラールをさりげなく付け加える奥深さ。こういう目立たない工夫(十分に目立っ ていて、私だけがびっくりしているのかも知れません)が、バッハの音楽を、何 度聞いても飽きないものにしているのかも知れません。

そして、終曲コラールでは、トランペット、ヴァイオリン、オーボエが共通のオ ブリガートを与えられており、演奏や録音によって目立つ楽器が異なることもあ りますが、やはりトランペットの情感が最高です。

▼演奏は、最初に聞いたときはアルノンクール、コープマン、鈴木雅明の3種類 でした。今もう一度聞いてみると、コープマン盤の柔軟さと緊密さは出色のもの です。特にバス(クラウス・メルテンス)と通奏低音のチェロ(ヤープ・テル・ リンデン)の掛け合いは、ゆったりしたテンポの中に比類無い情報量があり、比 肩するものがないほどです。アルノンクール盤のニムスゲルンもさすがに立派で す。鈴木盤も聞くほどに味があって良いのですが、やはりコープマン盤のしなや かで自発的な合奏・合唱に魅力を感じます。

その後聞いたのは、リリングの全集盤、ロッチュがライプツィヒゲヴァントハウ スと聖トーマス教会合唱団を率いたもの、そしてリリングに続いて個人によるカ ンタータ全集を完成したレーシンクのものです。

レーシンクのものは、コープマンや鈴木盤と比べて、合唱を除けばそれほど遜色 がないと言うのが特徴で、通奏低音のチェロやオブリガートのオーボエなどけっ こう楽しませてもらいました。リリングの演奏は大変真面目な演奏で、これを聞 いたときは作品のイメージが変わるほどの印象を受けました。しかし、ロッチュ のライプツィヒ演奏は、それ以上に豊かなバッハの世界を表現していました。現 在の流行に背を向けるような大編成の演奏ですが、とにかく聞いていて耳と腹に 充実感があります。第2曲合唱の哄笑は、この演奏を聞いていて実感したもので す。

(2002年2月3日執筆)


この曲は、題名から想像されるように、すこぶる晴れやかな曲で、特に第1曲 「ソナタ」は、3本のトランペットとティンパニが活躍する、華やかな曲です。 第2曲の合唱も、「ミサ曲ロ短調」の「クレド」のうち、復活を歌う部分を思わ せる、これも華やかな曲です。しかし、第3曲から第7曲まで、伴奏はチェロが 中心になり、音楽は内省的になり、レシタティーヴォとアリアが繰り返されま す。しかし、暗いものではなく、どこか宙を漂っているような軽さを感じ、正直 言ってあまりしっくりきません。第8曲、ソプラノのアリアでは、オーボエが効 果的に使われ、不思議な明るさを感じます。終曲のコラールはトランペット、 オーボエ、弦楽合奏が鮮やかな彩りを添えて、再び明るく終わりますが、爆発的 な感じはなく、しっとりした感じ。

書いていて、どうも、自分ながら十分に共感を覚えたものになっていないのが分 かるのですが、まあ、可もなく不可もなくと言う感じです。

▼演奏は3種類あります。アルノンクール、コープマン、そして鈴木雅明。曲そ のものがもう一つなので、どの演奏がと言うことはあまり言えませんが、アルノ ンクールのはちょっとたどたどしいところがあります。変にもたついたり、急に 走ったり。他の二つは、整った演奏です。強いて言えば、コープマンの方が、伴 奏のチェロやオーボエの表情が豊かと言う気がします。また、そういう部分によ く気をつけて聞いていくと、やはりさすがという曲作りがされています。

(2000年4月9日執筆)


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