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BWV18《天より雨くだり雪おちて》BWV199番《わが心は血の海に漂う》


バッハの教会カンタータ BWV18&199 (ワイマール時代1)

カンタータ第18番《天より雨くだり雪おちて》BWV18
Gleichwie der Regen und Schnee vom Himmel fallt
1713, 2/19 復活祭前第8日曜日

カンタータ第199番《わが心は血の海に漂う》BWV199
Mein Herze schwimmt im Blut
1713, 8/27 三位一体節後第11日曜日

さて、1708年ワイマール宮廷に移ったバッハですが、その後数年間はカンタータ の作曲が残されていません。カンタータ作曲にとっての転機となったのは、1714 年3月ワイマール宮廷楽団の楽師長に就任し、毎月新作のカンタータを上演する 義務を負ったことです。この1714年から1716年にかけて、20曲近いカンタータ が残されています。また、楽師長就任以前とされる曲も数曲残されています。こ れらの作品を数曲聞いてみると、ミュールハウゼン時代の作品に残っていた古風 さが完全にぬぐい去られ、真にバッハらしい堂々とした形式の作品となっている のに驚かされます。もちろん、初期の作品にも捨てがたい魅力があるのですが。

この頃、バッハはテレマン、アルビノーニの協奏曲やダングルベールのクラブサ ン作品などを盛んに筆写しています。特に、1713年から1714年にかけて、ザクセ ン=ワイマール公の甥ヨハン・エルンスト公子が留学先のアムステルダムから 持ち帰ったヴィヴァルディ、マルチェロなどの楽譜を、公子の依頼によって、オ ルガン独奏用5曲、チェンバロ独奏用16曲の協奏曲に編曲したことは、バッハ の「イタリア体験」と呼ばれ、その後のバッハの作風に大きな広がりを与えるの です。

ワイマール時代で、楽師長就任以前と考えられる作品はここに取り上げるBWV18、 BWV199と、BWV21そして就任直前のBWV54の4曲です。

▼BWV18「天より雨下り、雪落ちて」はレシタティーヴォを中心にした作品であ り、また、コラール(讃美歌)によってしめくくられる最初の作品でもありま す。新しい形式の教会カンタータの始まりとも言える重要な作品です。

曲は、ヴィオラの独奏部分と合奏部分が繰り返される、イタリアの協奏曲風のシ ンフォニアで始まります。しかも、曲全体はシャコンヌの形式をとっていると言 う、古い形式から新しい形式への移り変わりを象徴するようなものです。バスの 説明的なレシタティーヴォに続き、第3曲のレシタティーヴォは劇的な表現を表 情豊かな伴奏が盛り上げ、それにソプラノとコーラスの連祷(牧師と会衆が交互 に祈りの言葉を唱えるという形式)が続くという、独創的な形式をとっていま す。このレシタティーヴォと連祷は4回繰り返され、その間にレシタティーヴォ はいろいろと表現の工夫をしていきます。第4曲は、救いを得た魂が軽やかに神 を賛美するアリア、そして終曲は4部合唱の簡素で力強い讃美歌で閉じられま す。レシタティーヴォ、アリア、コラール(讃美歌)というバッハ教会カンター タの定番とも言える形式がやっと姿を現した曲です。

▼BWV199「わが心は血の海に漂う」と言うのは、何とも凄まじい標題です。これ は、罪の重荷に押しひしがれる魂を表しているわけで、非常に深刻な嘆きのレシ タティーヴォから始まります。曲はソプラノの独唱で、レシタティーヴォとアリ アの組み合わせが5回繰り返される形(ただし1回はアリアではなく独唱コラー ル)をとっています。

1曲目と2曲目は罪に押しひしがれ、「涙の流れ」の中から神に嘆きを訴える部 分。レシタティーヴォの深い表現、オーボエのオブリガートが印象的なアリア。 3曲目と4曲目は神の憐れみを信じ罪の許しを請う部分、アリアは深い安堵を表 すかのように、弦楽器のおおらかな響きが印象的です。5曲目と6曲目はいわば 信仰に生きようと言う決意表明の部分。6曲目はアリアの代わりに独唱コラール が歌われますが、ヴィオラのオブリガートが美しくからんできます。そして、最 後の7曲目と8曲目は救われた喜びと希望の歌。最後のアリアは12/8拍子の、弾 むような喜びが伝わってくる歌です。シューベルトの「聞け、ひばり」を思わせ るような所もあります。2曲目のアリアでは沈鬱な響きを聞かせたオーボエが、 一転して喜びに満ちたリズムを刻みます。

この曲を聞いた感想としては、「やっぱりバッハはええなあ」と思うのみ。

▼さて、BWV18の方の演奏は、アルノンクール、コープマン、鈴木雅明の3種類 です。実は、この曲は1724年にライプチヒで再演された際、伴奏にリコーダーが 加えられ、演奏もヴィオラ合奏だけのものと両方があります。アルノンクールと 鈴木盤はヴィオラ合奏のみの版で演奏、コープマンはリコーダーを加えた版で演 奏し、ヴィオラ合奏のみのものを付録に加えています。私の感じでは、リコー ダーはない方が良いようです。アルノンクールの演奏は例によってボーイソプラ ノのソロが苦しい。従って、鈴木雅明盤がこの曲に関してはベストです。ソプラ ノの鈴木みどりはまるで少年のような澄んだ声で、しかも少年のような不安定さ が無く、この曲には最適です。

BWV199はソプラノの独唱カンタータなので、何と言ってもソプラノの出来不出来 が重要です。カール・リヒター盤ではエディット・マティスが緊張感に満ちた高 貴な歌唱を見せており、リヒターの演奏も細部まで磨き抜かれた感動的なもので す。ただし、人によってはあまりに宗教臭いと感じるかも知れません。教会カン タータだから宗教臭いのは当然なのですが、それは聞く人の信仰がそのように感 じさせるもので、演奏そのものはことさらに宗教を強調する必要はないのかも知 れません。しかし、とにかく感動したい、泣きたい、と言う人にとってはこれ以 上の演奏はありません。(私もその一人...かな?)

ソプラノの美しい演奏としては、アルノンクール盤(バーバラ・ボニー)とハ ゲット盤(ナンシー・アージェンタ)。マティスのような緊張感はありません が、のびのびした美しい歌唱です。古楽器の演奏ものどかです。コープマン盤の バルバラ・シュリックは、少し声が荒く今一つ楽しめませんでした。ヴィン シャーマン指揮でエディッタ・グルヴェローバというのもありますが、これは声 に清潔感が無くいけません。ハゲット盤は、Virgin Classics の Veritas×2の シリーズで出ています。これは2枚組で2000円未満というお徳用です。他に BWV51, 82, 202などという有名どころも入っています。BWV202は「結婚カンター タ」として有名で、とにかくバッハのすべての作品の中でも最も美しく楽しい曲 の一つです。

(2000年2月13日執筆)


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