カンタータ第185番《永遠の愛の憐れみ満てる心》バッハの教会カンタータ(14) BWV 185 (ワイマール時代9)
カンタータ第185番《永遠の愛の憐れみ満てる心》BWV185 前回は1714年12月待降節用のBWV61を聞きましたが、この暑さでクリスマスでもなか ろう、この作品なら季節も一致しています。 最初の1小節、それどころか最初の1音を聞いてさえ、すっと心が引き込まれてゆく 曲があります。今までに聞いたカンタータの名作、BWV4,12,21,54,61,106など、いず れもそう言う曲で、録音も多い。これらは、どちらかというと暗めですが、もっと明 るい、あるいは慰めに満ちた曲もいろいろあります。それに対して、何度聞いてもピ ンとこない、とりとめのない曲があります。この曲もそう言うものの一つかな。録音 も全集盤しかありません。(アルノンクール、コープマン、鈴木、それと手元にはな いがリリング盤) ▼悪い曲ではないのです。最初のソプラノとバスのデュエットは、なかなか歌うのが 難しそうですが、合奏とのアンサンブルをピシッと合わせれば、やりとりが面白い。 それに、オーボエのオブリガートが讃美歌の旋律を奏して割って入るところは、非常 に凝っています。この旋律が終曲コラールでもう一度出てくるという構成もなかなか のもの。2曲目のアルトのレシタティーヴォも深いものを感じさせる。3曲目のアル トアリアは合奏の響きが豊かで、旋律も美しい。ただし、4曲目のバスのレシタ ティーヴォ、5曲目のバスアリアは何度聞いても、全然印象に残らない。最後がコ ラールとなるわけですが、ヴァイオリンのオブリガートがひゃらひゃらと響くだけ で、なんかやっとるなあというだけの印象。 ざっとこういう具合ですから、聞き終わって得したという感じがあまりしないのが欠 点でしょう。歌詞も、「人を裁くな自分が裁かれないためだ」と言った内容を最初か ら最後まで繰り返しているようで、全然魅力がありません。バッハならではの魂のド ラマがなかなか感じられないのです。 ▼鈴木盤は、曲の魅力のない方の面を忠実に表現している感じ。コープマンの方は、 声部間のやりとりなどに生き生きした魅力は感じますが、それだけ。意外やアルノン クール盤がベストと感じました。旋律がコープマンのように柔らかく流れないで、リ ズムのアクセントをしっかりつけて演奏しているのが、3曲目のアリアなど表面的に 流れない精神的な内容を感じさせる点。 それとアルトのポール・エスウッドが抜群に うまい。この2点で、他を引き離しています。ただし、最初のデュエットでは少年の ソプラノがキャンキャンほえるような歌い方で、この点だけはもう一つ。他の盤のア ルトはふにゃふにゃして気持ち悪いだけです。(鈴木盤はタチカワアキラ、コープマ ン盤はカイ・ヴェッセル。もちろん、いずれもカウンター・テナー)エスウッドのレ シタティーヴォだけは魂のドラマを感じさせました。ただし、こう暑いとそれどころ じゃないのね。 なお、コープマン盤では、第1曲でオーボエのオブリガートが入るところを、ソプラ ノのコーラスに歌わせています。もちろん歌詞付きで。フィンランディアに合唱が入 るような感じで、確かに美しいとは言えるが、こんなことをして良いのでしょうか? (2000年7月21日執筆)
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